『詩人と女たち』チャールズ・ブコウスキー
これを読んだのは20代後半でしたが、その歳になってもなお「男ってこうなんだ」と唖然とした記憶があります。


セックスシーンの連続で、それはもうあけすけで爽快なくらいです。
そこに50歳男性の孤独、渇望、老い、弱さ、恐怖、憧れ、自由、不毛さが浮かび上がるのです。


うまいたとえが見つからないのですが、この作品を読むと酔っ払って酒はいいと思ったものの、二日酔いの朝を迎えてうんざりし、いつもは気にしない味噌汁のうまさに酔いしれていながら、またビールで迎え酒をする気分になるんですよね。
本当にうまいたとえが見つからない(笑)


男という生き物ってこうなんだなぁとしみじみします。
タフかと思ったら情けなくって、惨めで滑稽。でも、どこかロマンチスト。
そしてここに登場する女性たちも、様々。


この『詩人と女たち』の原題は『Women』で複数形です。
詩人の一人称なのですが、女性の私は詩人のありように目が行くんです。
けれど、原題からして、あくまで詩人が見ているのは女性たちであって、それでもその女性像の中に詩人がいる。


複数の女性たちそれぞれ個性があります。まったく違う色を持っていたり、ちょっと似ていたり。
そしてそれぞれのライトで落ちた影が一つになって詩人の形がおぼろげに見えてくるような気がします。


男と女って奇妙なものですね。




スポンサーサイト
別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510272059
『幻想郵便局』堀川アサコ
ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した作家さんの作品です。
狗山というちょっと小高い山のてっぺんにある不思議な郵便局の物語。


癒し系なのかなぁと思いきやミステリの要素が少しあってクライマックスなどは楽しかったです。
伏線がわかりやすいんですけれど、それが独特な設定をすんなり受け入れさせてくれた気がします。


人ならざる者が出てくるんですが、しれっとしているというか、飄々としているというか、ちょっと達観しているところがいいですねぇ。


生きている人、死んでいる人を繋ぐ物語なので、ほろっときたり、しんみりします。けれど、そこに一欠片の微笑みが残るのは、作者の人柄かもしれません。


シリーズのようですが、続編のタイトルは映画館。
個人敵には手紙を題材にしたこの郵便局での物語をもっと読みたいなぁと思いますが。




別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510211709
『怪しい店』有栖川有栖
有栖川有栖と火村英生コンビの短編集です。
『店』をテーマにしたミステリを集めた一冊になります。


短編集ですからサッと読めますし、毎度火村先生とアリスの掛け合いは心地よいです。


いつの頃からか店を舞台にした小説やコミックが特に目立つようになりました。そういう傾向から見ても、店というものには独特な世界があって、そこに集う人々の物語に特殊な光を当てやすいのだと思っています。


この一冊にも骨董屋、理髪店、古本屋、はては怪しげなカウンセラー的な店まで出てくるわけですが、それぞれの店には店主の生き様もあるし、客の生き様もあって、その交錯する中に事件が起きて……とガラリと気分が変わって面白いものです。


有栖川先生の本には、ジャズや小説がちらほらと登場するので、自分の知らないものを見かけると「お、これ聴いてみよう」とか「読んでみよっか」という良い挑戦のきっかけにもなります。もちろん、知っていれば情景がぐっと鮮やかになりますが。




別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510202256
『夜歩く』ディクスン・カー
金田一耕助の『夜歩く』ではなく、ディクスン・カーが生み出したアンリ・バンコランの活躍する『夜歩く』です。
古典ミステリーの傑作ですね。


パリを舞台にした密室もののミステリー。
密室でありながら、劇的です。


犯人の悲哀や狂気、動機といったものはものすごくあっさり描写されていると思います。
淡々としているんだけど、だからこそなんか怖くて余計に劇的。


昔の作品だけに言葉や表現がレトロなんですけれど、輝く街灯を反射する川の水面やエッフェル塔の描写をなんともいいものにしています。


ちなみにバンコランで検索すると、『パタリロ!』ばかり出てくるんですけれど、『パタリロ!』の登場人物ジャック・バンコランの名前の由来こそ、カーのバンコランらしいです。


ところで、この作品には『猿の腺』というカクテルが登場します。
恐ろしく強いカクテルとして名前が出てくるんですが、調べてみるとジン・オレンジジュース・グレナデン(ざくろ)・シロップ、アブサンをシェークする古典カクテルのようです。
ジンにアブサン足すのか……それは強いかもねぇ。




別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510191245
『フォトグラフール』町田康
「これは一体、何の写真だろう?」と、思わせる写真に町田康が独特な文章を寄せるスタイル。
一枚の写真から広がる町田康ワールドを楽しめる一冊です。
なんだか、楽しんでいるなぁと、にやりとさせられます。


なんといえばいいのか、ハイセンスなナンセンスでもあり、真面目に不真面目なんです。そこがいい。
眼光鋭い方のイメージがあったんですけれど、この作品からは飄々とした一面が見えた気がします。


『楽しみ』って遠い世界や夢の中にあるとは限らず、意外とすぐそこにあるんですよね。
要は上手な『楽しみ方』を知っている人は、四畳半の部屋も大海原に変えることができるし、トイレが講堂に、ベッドがお城になるわけです。


「楽しんじゃえよ」って声が聞こえてきそうな作品でした。
どんなに「ありえない」ことでも、「ありえるかも」と思わせる世界を作り出すことこそ、創造なのかもしれません。


想像力は最高の遊具なのだと思います。




別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510172144
『東京百景』又吉直樹
『火花』は未読なのですが、書店にてこの『東京百景』の装丁に惹かれました。
梨木香歩さんの『家守綺譚』の装丁がダントツに好きなのですが、同じくらい気に入ってしまったのです。


一度、店頭で立ち読みし「心地の良い文章だな」と思ったのですが、なんとなく買わずに帰宅しました。
なのに、帰ってから忘れがたくなり、急いで別の本屋に行って購入。一気に読みました。けれど、読み終わるのがもったいないほど味があるのです。


第一印象のとおり、とても心地良いのです。ナンセンスも人柄も視点も、ひっそりと自然体で穏やか。
本当は燃えるようなものがたぎっているとしても、その熱をひけらかさない強さを持っているんだと感じました。


個性とか文才という言葉で片づけたくないのですが、なんとも心にすっと滑り込む文章なのです。
生き方なのか、読んできた本で培ったものなのか、無性に「うまいなぁ」とにやりとさせられる。


色も温度も湿度まであって、ページをめくるうちにクスッと笑ったり切なくなったり、しずかに引き込まれます。
派手ではありません。けれど、そこがいいのです。




別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510162332
『鹿の王』上橋菜穂子
本当に余韻の深い名作です。
この人間の体に宿るミクロでマクロな世界、そして自然や社会における人間のミクロでマクロな世界。


この方の作品は重厚なんですね。取材もものすごく、医術の場面などではその成果がものすごく伝わってきます。
情景描写も、登場人物のアクションも、よくこれだけすっと映像美をともなって脳内に呼び起こすことができる文を書けるものだと感嘆します。
とてもわかりやすく、同時にとても美しく、印象的なのです。


上橋さんの作品は年齢層が高い人物も出てくる。
今作の主人公2人のうち、1人は40を越えていますから、決して若くない。けれど、その年代じゃないと無理が出る凄みが自然とある。
そう、自然なんです。年齢を重ねたもの、経験を積んだものの重厚感と存在感を持つ人物像が巧みですねぇ。


この作品は医療サスペンスであり、政治の陰謀であり、民族間の葛藤、そして人としてのドラマ、なによりエンターテインメント。ファンタジーという森の中にそれらをちりばめて、私たちを誘ってくれる名作です。


息子をはじめ、少年少女に読んで欲しいと思う本でもありますが、大人になってから読み返して欲しい本でもあります。
この年齢になると、友人にもがん闘病の経験がある人もいれば、亡くなった人もいます。死は年齢に関係なく、背中合わせ。それを知った後に読むと、また違って見える本だと思います。




別窓 | 読書 | コメント:0 | トラックバック:0
201510151903
| 猫草物語 |
2006-2015 template by [ALT -DESIGN@clip].